北海道農政部のhpから

1 降灰が農作物に対する影響と対策(共通)
(1) 現時点で農耕地に存在する作物は果樹・秋まき小麦・牧草であるが、各作物とも萌芽・起生の途中あるいはその直後で降灰量が少ないこともあり、生育などに対する影響はほとんどないことから特別な対策は不要である。
 
(2) 降灰が微粉粒子であることから、ハウス及びトンネル内に拡散・侵入し、葉菜類やイチゴ果実を汚染する可能性がある。対策として、ハウス・トンネル開閉前の被覆資材の洗浄や周辺の散水が有効である。
 
(3) 物理的性質は液性限界、塑性限界の値(含水比)が低いところにあるため、少量の水分で「どろどろ」になりやすく、また、乾くと「がちがち」になることから、降灰量が2cm以上になると農作物に損傷を与えると考えられる。
 ほ場状態によっては、すきこみや除灰等について検討する。
 
(4) ハウス、トンネル、べたがけ資材の対策
ア ハウスやトンネル上に積灰があると、ハウス倒壊やトンネルがつぶれる可能性があるので、降灰のつどこまめに灰を払い落とし、ホース、動力噴霧器、スプレヤ(トンネルの場合)等により速やかに洗い落とす。
イ 可能な場合は、古ビニールや被覆資材を活用し、ハウスの2重被覆を行い、ビニールを保護する。1〜2cm程度の積灰になった時に一度除去し、ビニールをかけ直す。
 ウ 大量降灰に備え、支柱でハウスを補強する。特に規格よりつま面を広くしてあるハウスは重要である。また、ハウス内の暖房機器等を被覆保護できるように準備する。
 
2 水稲
 避難指示が解除されている地区の育苗準備は、2〜3日の遅れが見込まれる所もあるが、ほぼ平年並みに浸種が行われており、は種作業も大きな遅れはないものと見られる。
 
(1) は種・育苗
 ア 昨年産の種籾はやや休眠が深いものがあるので十分浸種し、催芽は芽の出方を確認して切り上げる。
 イ ハウス内の地温を上げ、播種した箱を置き床に並べる。なるべく午後3時までには終わらせハウス内の気温、地温の低下を防ぐ。
 ウ 出芽後は、ハウス内気温を25C以上に上げないよう管理する。
 エ 降灰に備えてハウス内に支柱を建て、降灰があったときはすみやかに洗い落とす。
(2) 本田準備
 ア 一部の地域で基幹水路や頭首工に被害があり応急仮工事で移植に間に合わす予定であるが、配管内部や水路など早めに水を通してチェックする。
 イ 暗渠排水口や排水路の点検も忘れずに行う。
 ウ 耕起作業も平年並に行える状況にある。有珠山に近いところでは目に見えない地盤の変化などが心配されるので、代かき時に十分注意する。
(3) 水稲移植用苗の確保・供給について
噴火による避難等により、育苗作業が困難となった農家のため、「移植用苗(中苗マット)」について関係機関・団体と協力体制を整えているので、希望者は農協に申し込む。
 
3 畑作
(1) てんさい
 ア 徒長しすぎた苗は、移植作業に支障をきたし、かつ活着しにくいので、先端の茎葉部分を切り落とすなど、処理しできるだけ初期生育を促進するよう努める。
 イ ほ場の透排水性や保水性を高めるため、心土破砕や深耕を行う。また、畦間サブソイラなどを有効活用する。
 ウ pH5.5以下の低pHほ場では、当面pH6.0を目標に石灰の作条施用などを行い、生育障害を回避する
(2) 馬鈴しょ
 ア 前進栽培の作型では、植え付けが遅れているので、初期生育を高めるためパオパオなどのべたがけ保温資材を有効に活用する。
 イ 普通作型では、初期生育を良好にし規格内率やでんぷん価を高めるため、作付けほ場の排水条件、土壌pH、浴光催芽、種芋消毒などに十分留意する。
 ウ 施肥量は、施肥標準を考慮し、土壌診断を活用し適正に行う。特に、窒素や加里の多用はでんぷん価を低下させるので避ける。
(3) 秋まき小麦
 ア 茎数不足のほ場では、分追肥の施肥窒素を考慮し、茎数確保に努める。
 イ 除草剤の使用は、生育状況や雑草の発生状況を判断し、幼穂形成期(平年5月2日)頃までに散布する。
 ウ 幼穂形成期以降に降灰があった場合には、ブームスプレヤの竿などに布などを下げて茎葉をこすりつけ、できるだけ灰を落とす。
(4) 豆類
 ア 品種別に適正な栽植本数を確保し、出芽率を高めるため、種子の大きさに合わせた種盤を使用する。 また、種作業では施肥位置と種位置を確認し、種精度を高める。
 イ 種子は、無病健全なものを用意する。また、種粒数及び粒大を考慮して、必要な種子量を確保する。
 ウ ほ場の準備にあたり、過度の砕土・整地を避け、表層は細かく、下層は粗くなるように心がける。



○各作物のは種(移植)晩限
  作物名 は種(移植)の晩限   備   考
てんさい   5月末日  
ばれいしょ
(男爵薯・ワセシロ)
  6月5日
 
早生種の場合
 
白花豆   6月10日 6月上旬までのは種が望ましい

 
虎豆・大福   6月15日
小豆(大納言含む)   6月15日
 
4 野菜
(1) 施設野菜
 定植が遅れたり、定植後管理が中断したり、温度、かん水管理を十分出来なかった作物は、以下の点に留意する。 
 ア トマト
  開花の進んだ老化苗を定植した場合や、定植直後の避難で管理作業が出来ず、かん水や換気が不十分で、草勢が低下している場合は、第一段果房の着果数が5円玉の大きさになるまでの間、4個以内に制限して、草勢の回復を図り、上位段の着果数の確保を図る。
 追肥は三段果房の開花期に遅れないように、草勢に合わせ行う。
 下葉の黄色葉は早めに除去してハウス外に出す。灰色かび病や、葉かび病等の予防防除を行う。
 イ メロン 
 着果節位(孫づる8〜12節)の花芽のできる時期は、子づるの1〜2葉期からである。活着が良好で、この時期の生育が安定していることが良質果実生産の条件であるので、生育適温である地温16C以上、日中25〜28C、夜温17〜18Cを目標とした保温、換気につとめ、草勢の回復を図る。
 ウ その他施設野菜
 ほうれんそう、こまつな、水菜等の葉茎菜類は、降灰が微粉末のためハウス内に浸入付着することが予想されるので、降灰があればハウスを締め切り、ハウス周りに散水して防塵飛散を防ぐ。
  
(2) トンネル、べたがけ、露地野菜
 ア キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー
 徒長苗や老化苗、生育不良苗を定植し、活着や初期生育が停滞している場合は、葉面散布を併用して、生育促進を図る。
 これから定植する場合は、苗の馴化を行い、畑の砕土、整地を丁寧に行って、セルやポット部が地上部に露出していないように植え付け深さに注意し、活着を促す。
 イ レタス
 平畦は腐敗性病害に侵されやすいので12〜15cmの高畦栽培とする。
 徒長苗や老化苗を急いで植えようとし、斜めに定植すると、切り口が球の中心からずれる変形球と成りやすいので、焦らず植え付けるとともに、曲がった苗は地面に対して垂直になるように手直しを行う。
 
 ウ かぼちゃ
 トンネルかぼちゃは定植期を迎えている。子づる用品種は本葉4葉で摘心し、定植2〜3日前から育苗管理温度を下げ、10C程度の低温に馴らしておく。
 再は種で親づる用品種の「みやこ」を栽培する場合は、無摘心とし一本整枝に対応した栽植本数とする。    
 植え付ける畑のマルチは、土壌水分が十分にある状態で早めに行い、13C以上の地温(深さ15cmのところ)確保しておく。 定植穴は植え付け当日に開け、定植は根鉢を壊さないよう、深植にならないように行う。
 定植直後は高温障害や晩霜害に弱いので、気象予報に注意してトンネル管理を行う。
 なお、予備苗は晩霜の危険がなくなるまで保管しておく。
 エ トンネルメロン
  地温を16C以上に上げて定植するために、定植7日以上前にマルチトンネルして地温を確保する。トンネル内ベットは高畦方式や設置面を広くとるなど保温効果が高まるように設置する。
 
5 果樹
 りんご・おうとう降灰枝の水差し生育状況
 西胆振地区農業普及センタ−では、4月7日、壮瞥町で降灰が付着した「りんご」と「おうとう」の枝を採取し、水洗いした枝と降灰が付着したままの枝を「水差し」し生育差の有無を調査しています。
 現在までの状況では、水洗いした枝としない枝の生育の差はないことから、降灰による萌芽、生育への悪影響はないと判断されます。
 
 
(1) 整枝せん定
  避難や労働力不足でせん定が遅れている場合、次の点に留意する。
ア せん定は、発芽前までに終らすのが基本であるが、芽が動いてからでも樹体に大きく影響することは無いので、開花前までに仕上げることで作業を進める。
  現時点で焦り、事故を起こさないよう注意する。
イ 梅やさくらんぼなどは、芽がふくらみかけている。整枝せん定に当たっては、日当たりと作業性を重視した「枝の間引き」で一回りすることを優先し、一本一本の丁寧な仕上げは、その後2巡目に行う。なお芽が動いてくると「芽が折損しやすく」なるので、作業時には注意する。
(2) りんご「腐らん病」罹病部の処置
 病斑拡大が著しい時期であり、作業の遅れなどから病斑部の発見が遅れると、被害が急激に拡大する。発見次第速やかに削り取り又は切除などの処分をし、癒合塗布剤を塗布する。
(3) おうとう・プル−ンの灰星病対策
  おうとうやプル−ンの灰星病「ミイラ果」は、伝染源となるので、せん定時にこまめに摘除する。なお、摘除したミイラ果は、速やかに園外に出し、焼却する。
 
(4) ぶどうの棚上げ
  冬季間、枝下ろしをした樹の棚上げに当たっては、架線にしっかりと固定する。
 
6 花き
(1) 鉢物・花壇用苗物の仕上げ管理
 春の需要期に合わせた計画出荷を図るため、仕上げ馴化の温度管理や肥培管理に努める。また、苗初期の春まき苗物は低温による障害を回避するため、保温資材などを活用し健苗を育成する。
(2) 球根類の適期作業
 春植え球根類のグラジオラスやカラーなどは、生育初期の低温や晩霜害に弱いものが多いので、露地ではこれを回避する作付計画のもとに、ほ場の準備と球根の適切な貯蔵や催芽を進めて植付ける。また、早期作型の場合では低温に備え保温被覆資材の活用を図る。
(3) 施設切花類の管理
ア 降灰に備えたハウス保護対策(パイプの補強、除灰用の被覆など)を講じる。
イ 暖房機の不作動や燃料タンクの倒壊や油漏れに注意し、地震直後の点検に努める。
 ウ 十分な水確保が困難又は心配される場合は、マルチ資材の利用を図り節水管理に対応する。
 エ 無加温作型でも多くの品目で定植期に入るため、育苗後期に苗の馴化を徹底する。
   定植及び活着期の温度、水分の適正管理に努め初期生育を促す。
   セル成型苗は、移植適期に達した苗はすみやかに植付ける。ほ場の準備が遅れ、一時保管する場合は、高温強光や乾燥を避け、養分・水分の供給と涼しいところでの管理に努めて老化を抑える。避難の影響等で苗に支障が生じた場合は、関係機関と連携を図って対応する。
(4) 露地切花類の管理
 ア 越年株は、新葉の萌芽前に前年の枯葉等を摘除し、施肥を適切に実施する。
 萌芽や抽台が開始した株では、芽数や花茎の適切な本数整理によって品質向上を図る。
 イ 土壌水分の適切な状態での耕起・床づくりに努め、ほ場が乾きすぎないよう、マルチ資材の利用を図り節水管理にも対応できるようにする。
(5) 花きほ場の土壌改良
  土壌改良や施肥は花きの土壌診断基準を参考にする。定植前の降灰には、量によって混和、混層耕、反転すきこみ、除灰等で対応する。
 
(参考)  有珠山噴出に伴う降下灰の分析結果
 
1 採取した降灰の範囲と量
(1) 降灰の範囲は、初回(平成12年3月31日13:10頃)が伊達市長和・関内、壮瞥町東湖畔・滝之町・久保内に、数ミリの厚さで降灰した。
(2) 次回以降の降灰は、主として有珠山から北東に7〜14kmの地点(壮瞥町・伊達市) 及び北西に8〜14kmの範囲(真狩村・留寿都村・洞爺村)で、降灰量はいずれも1mm程度であった。
 
2 降灰の分析結果
(1) 初回(3月31日)
 ア 水PHは8.99と、昭和52年一次噴火時の降灰のpH8.55と比較してやや高く、EC(電気伝導度)は0.13mS/cmと低い。
 イ リン酸吸収係数は1,130と、前回(548)より高めである。
 ウ 土性は細砂画分が多く粘土が少ないため、砂土(農学会法)あるいは砂壌土(国際法) に分類される。
 エ 土壌工学的に適正な(扱いやすい)範囲を示す「塑性指数(=液性限界−塑性限界)」が、9.4%と狭い。すなわち、物理的性質は液性限界、塑性限界の値(含水比)が低いところにあるため、少量の水分で「どろどろ」になりやすく、また、乾くと「がちがち」になることから、降灰量が2cm以上になると農作物に損傷を与えると考えられる。
(2) 2 回目(4月2〜10日の10回採取試料の概括)
 ア 水PHは7.9〜8.7、ECは1.0〜2.7mS/cmと高めである。
 イ ECが高いのは水溶性イオンが多いことに起因する。この内訳は、ナトリウムイオンが極めて多く、カルシウムイオンがこれに次ぐ。水溶性陰イオンでは硫酸イオン、塩素イオンが多い。この水溶性イオンは、降雨により洗い流されやすくECはいずれ 低下することから、営農上の問題は少ない。
 ウ リン酸吸収係数は1130〜2330と、初回よりかなり高めであるのは降灰の粒径が細かいことによる。
 エ 土性は砂壌土〜埴壌土(農学会法)で、シルト及び粘土含量がそれぞれ20%及び30%含まれ、飛散しやすい微粉粒子が多い。