小林ひろみが見た今の有珠山
 行った、見た、聞いた有珠山2泊3日
9月21日昼に千歳空港着。
レンタカーで国道36号〜37号経由、伊達市へ入る。
たいちょー宅、表敬訪問。
(ごめんね、アポ無しで突然>冨田さん)
会えてよかった、話できてよかった、うれしかったよ。
別れ際のガッシリ握手、忘れない。

伊達側から見る有珠山は、それがまさに噴火してるとは思えないおだやかな山容で、
正直言って拍子抜けの感があった・・・が、これが大間違いであることにあとで気がつく。

時刻はすでに夕方5時を過ぎていて、薄暮の中、昭和新山の横を通って洞爺湖に出る。
泊まりは2泊とも壮瞥の「かわなみ」。
壮瞥町久保内の避難所からHPを立ち上げた3人のうちの1人がこの宿の人。
避難時の話や営業再開後の話を聞く。
かわなみは建物にはそれほどの被害はなかったというが、館内の廊下にすさまじい亀
裂が入っているのがそのままになっていて、地の底からのエネルギーのすごさを実感する。
男湯の天井が垂れ下がってしまい、突っかえ棒で応急処置ののち家族総出で修復したり、
露天風呂に積もった灰の掃除に難儀したり、火口からは山影になっているとはいえ、
かわなみにも噴火の爪跡は大きく影響したようだ。

かわなみ付属のバーのバーテンダーさんは、よりくわしくいろんな話を聞かせてくれて、
避難解除直後に撮ったかわなみ近辺の写真も見せてくれた。
白黒写真かと思うくらいモノトーンの景色だった。
「これがここなのー?」と確かめないと現在の景色と一致しない。
絶句した。
地震がひどくなる前にバーのグラス類はすべて安全な保管をしたから、備品の被害はな
かったそうだ。

夕食後、たいちょー命令により空振を体感しに洞爺湖温泉街へ行く。
明るいうちに金毘羅山火口の位置を確認しておかなかったのでどのへんに行けばいいの
かわからなかったが、とりあえずレストラン望羊蹄の近くに車を停めて車外へ出てみた。
空振は突然、襲ってきた。
そこら中の店のシャッターがガシャッと揺れる。
ガラス窓がビリリッと揺れる。
地の底から突き上げてくるような振動を感じる。
振動が腹に響く。
文字にはできないなんともいえない恐怖感がある。
どこかすぐ近くで戦争でもしていて、大砲をガンガン撃ち合っているようなそんな感じだ。
ここ最近やけに空振が多く、5分おきくらいにあると聞いて出かけたのだが、5分おきなん
てとんでもない。
アナログ時計の秒針が秒を刻む間隔でドンッとくる。
ドンッ・・・ドンッ・・・ドンッ・・・・・・・・ドウンッ。
不規則に時折ひときわ大きな空振がある。
不気味の一言に尽きる。

かわなみに戻って館内が寝静まってからは、そこにまで空振が伝わってきているのを感じた。
遠くドゥンという音とともに窓ガラスがビビる。
距離があるぶん恐怖感はなかったが、不気味だった。
会って話をした人みんな、空振にも火山灰にも「慣れちゃった」と言っていた。
慣れなきゃ住んでいられない、ここで生きていけない、それは危機感が薄れるとか警戒を怠
るとかとは別問題で、いわば、慣れつつ警戒する毎日。
この相反する気持ちを継続することに疲れを感じているようだ。

翌9月22日、有珠山ロープウェイで有珠山頂駅へ登り、最上部の展望台へ行った。
そこからは金毘羅山火口の噴煙も西山火口の噴煙も見えず、空振も感じられない。
有珠山頂部は静かなもんだった。

山を降り、洞爺湖温泉街に回り、金毘羅山火口が間近に見えるポイントを探す。
協会病院に車を置き、休業中のセイコーマートの坂を徒歩で上がって立ち入り禁止ライ
ンまで行く。
現在の有珠山ネットのトップページにある画像撮影ポイントよりももう少し左寄りのところ。
火口がすぐ目の前にある。
いや、火口は見えないが、立ち上る噴煙、噴き上げられて積もった火山礫、火山灰の丘、
立ち枯れた木々、それらがすぐ目の前にある。
火口までは距離にして600〜700メートルだろうか。
肉眼ではっきりと噴石が飛ぶのが見えた。
真上に噴き上げられた噴石はゆっくりと放物線を描いて落下する。
真横に飛ばされた噴石は矢のようなスピードで四方八方に突き刺さる。
白い噴煙が絶え間なく上がり、ときおりゴーッ、シューッという音とともに地鳴りのような響
きをともなって一段と大量の白い噴煙や灰色混じりの噴煙が上がる。

火山灰であたりの空気がかすんでいる。
たちまちノドがいがらっぽくなって、目が異物感でシバシバしてくる。
火山灰が漂っているというよりも、全身に灰を浴びてるんだと実感する。
実際に噴煙を見るまで、テレビなんかを見る限り、もうこの段階の「終息に向かいつつある」
噴煙ってのは常に一定でモクモクモクモクと出ているだけかと思っていた。
だがナマで見ると、モクモクモクモクだけじゃなく、ブワーッやシュワーッやドドドーッや、いろ
んな噴き方をすることがわかる。
それが絶え間なく、途切れることなく、延々と続いている。
「すげー・・・」
「あっ、今度の大きいっ」
「うわっ、今の、すごい高さまで噴石飛んだっ」と、思わず声が出る。

不謹慎な表現だが、見飽きないのである。
目の前で起こっている現象に圧倒されて、目が離せないのである。
これはぜったいに見るべきだ。
見ると聞くとでは大違いだ。
物見遊山でいい、怖いもの見たさでいい。
時間とお金がある人はぜったいに見るべきだ。

ナマで見て、純粋に「怖い・・・」と思い、単純に「すごいね、自然って」と思い、その思いから、
このすぐ間近に暮らす人、商売をしている人に思いを至らせれば、枕カバーは白無地がいい
か可愛いプリント柄がいいかなんていう議論がいかに不毛なことかがわかるだろう。

洞爺湖畔の西側を半周し、洞爺村から国道230号線に上がった。
サイロ展望台から見る金毘羅山と西山の噴煙は細く白く立ち上っているだけで、
恐怖感も不気味さもない。
テレビで見る映像と同じだ。
引きの映像では真実は伝わらない。
テレビの映像を見ただけで「ああ、大変なことになったね」と思っているアナタ、アナタには現
実に起こっていることの1/1000も伝わっていないんですよ。
半径5メートルで見たこと・聞いたこと・感じたことの大切さは、立ち入り禁止ラインぎりぎりま
で行かないと実感できない。
被災者ではない者は被災者の気持ちになることはできないけれど、恐怖感や不気味さを体
感することはできる。

これがもし我が身に起こったらと想像するのはたやすい。
たやすいけれど、そんな想像、ナマで噴火を見ればいかに見当違いの想像をしているかが
わかる。
明日は我が身、情報支援、ペット避難、等々、今まで引きの映像しか見ていなかったくせに
よくも偉そうなことばかり考えたり書きこんだりしたもんだ>ワタシ。
大反省。
現場を見ればおのずと何が大切で何が大切じゃなくて、
情報支援ってなんなのか、
何をすればいいのか、
何が求められているのかがわかる。
ワタシにはわかった。

ホントに行ってよかった。見てよかった。
もう一度、言います。
時間とお金のある人はぜひナマで有珠山の今を見に行ってください。
今ならまだ噴火しています。
語弊があるけど、今見ておかないと損します


赤文字強調 冨田きよむ