小林ひろみ@三重

備えあれば涙なし
(〜有珠山噴火・ペット避難が残した教訓〜)

有珠山噴火と有珠山ネットを通じて、
私は初めて災害時のペット避難問題に関わりました。
 一動物好きとして、一飼い主として、
2000年3月31日からの心の内をここにまとめます。

[置き去りペット]
 有珠山噴火は緊急の避難指示によりペットを連れての避難に混乱が起こりました。
マイカーに乗せて避難した場合はよかったのですが、
役場が手配したバスにはペットは乗せてもらえず、
なかにはすぐに帰ってこられるから置いていけという指示もあったと聞いています。
実際、ペットをどうするかなどと考えている時間もなかったでしょう。
出入り自由にさせていた猫などは、そのとき身近にいなかった確率が高いですし、
せめてつないである犬を放すという思いやりしか示せなかった飼い主さんの心情を思
うと、
なぜ連れて避難しなかったんだと飼い主さんを責めるわけにはいきません。
 責めるわけにはいかないけれど、「なぜ置いてきた?」「どうしても連れてこられ
なかったのか?」という疑問は、私の中で長く尾を引きました。
 悶々とした日々を過ごしたのちに私が得た答は、
いつ噴火してもおかしくはない山の近くに住むことへの備えの甘さです。
ハザードマップ、避難マニュアルに目を通しているはずの住人は、
ペットを大切に思うのならペットの避難にも心づもりをしておくべきではないのか?
必ず一緒に避難する、そのための方法と手段、避難したあとのこと等々、
飼い主自身があとになって悔いを残さないためには平時から心の備えと物の備えをし
ておかなければならないのです。
 これは私が有珠山噴火から学んだ最大の教訓です。

[避難後のペット]
 避難後のペット保護の受け皿として、今回の有珠山噴火では早期に北海道獣医師会
が立ち上がりました。
 伊達市に設けられた2ヶ所の動物救護センターにはのべ350匹のペットが預けられ、
避難生活で心労の大きい飼い主さんにとっては安心材料として立派な功績を残したと
思います。
 この功績は前例となり、次に起こった三宅島噴火に引き継がれ、
東京都獣医師会が早々に避難ペット受け入れの準備を開始しました。
ただし、都からの正式要請がないと動けないとの一点張りで、
実際のペット支援のスタートは出遅れました。
タテ割システムの弊害が露呈したというわけです。
 この点、独自に支援のスタートを切った北海道獣医師会は見事でした。
北海道獣医師会ホームページで避難生活を送るペットの様子をアップしたり、
受け入れ数と引き取り数を毎日のように更新するなど、
インターネット情報としても画期的な活動をしたと高く評価します。
被災した飼い主さんの精神的負担と経済的負担を軽減したという意味でも、
北海道獣医師会は今回の支援の実績をもっともっとアピールしてもいいと思います。

[情に流されやすいペット支援]
 マスコミは災害の悲惨さや哀れさを表現するビジュアルとして、
ポツンと取り残された犬の写真などを競って流します。
有珠山噴火当初も、人の気配のない洞爺湖温泉街にたたずむ犬の写真が全国紙に掲載
されました。
 それを見た全国の動物愛好家や災害を一面的にしかとらえない心優しい人たちから
は、
「むごい」「助けてあげて」という声が必然的に上がります。
確かに、むごいことです。助けてあげたいと思います。
けれども、やむなくペットを置いてきた飼い主さんにはそれぞれの事情と判断があり
ました。
連れていきたかったけど無理だった、
放すから、せめて自力で逃げてほしい、
あるだけの餌を置いていくから、それで生き延びてほしい、
100人の飼い主さんには100通りの事情と判断があったのです。
 それを一律にとらえてしまい、単に「かわいそう」「助けてあげて」というだけの
無責任な発言によって、
災害時のペット問題は泥沼にはまっていくこともあります。
情に流された世論は、やむなくペットを置いてきた飼い主さんの気持ちをますます追
い詰めます。
 そしてそのことは、ひそかに山越えをしてペットを救出するという事態に発展しま
した。

[C-1潜入事件]
 避難生活が長引くにつれ、置き去りペットや放浪ペットを助けようという声が日に

に高まりました。
有珠山ネット掲示板でも4月第1週には「置き去りペットを助けてあげて」という悲
痛な書き込みが見られます。
動物愛護サイトではその悲痛な書き込みは日を追って増加していきました。
 これを受けて、全国の動物愛護団体がインターネットを通じて協力体制を作り、
置き去りペット救出のために署名活動を展開したり、
国会議事堂前でアピール行動をするなど、
自衛隊派遣によるペット救出の請願を繰り広げました。
けれども自衛隊といえども危険区域に立ち入るには及ばずという道庁からの正式回答
を経て、
ついには動物愛護団体によるC-1潜入ペット救出が何度か決行されました。
 この実力行使が決行される直前まで、
私は他の動物愛護団体ともメールのやり取りをし、
情報交換で協調する姿勢を取っていました。
しかし、C-1潜入の事実を知ってから、「それはおかしいぞ」と思うようになりまし
た。
C-1に潜入するということは、その無謀な行動をやめさせるためにまた他の第三者を
C-1に送ることになります。
何に関しても二次災害防止という前提があるはずです。
 自分たちの倫理観に従い、使命観を達成するために第三者の身の危険をなんとも思
わない行動に、
私は強い違和感を覚えました。

[私はこれから何をするか]
 C-1潜入事件があって以来、立ち入り禁止地区の置き去りペットについては、
私は線引きをしました。
支援の対象外という線引きです。
つらい決断でしたが、このことによって私の心はクリアになり、
今後、ペット避難をどう支援するべきかがはっきりと見えてきました。
 何が見えたか・・・。
ペット避難は最初が肝心。「あとから」はありえないということです。
そのためにはやはり、避難するときには一緒に連れていく、この決意と備えを飼い主
さんに啓蒙する必要があります。
同時に避難後のペットの処遇を心配しなくていいように、獣医師会主導の受け入れ態
勢を計画しておかなければなりません。
・飼い主は日ごろから災害時のペット避難のことを考えておくこと
・行政は避難マニュアルにペットのことを盛り込むこと
・全国の獣医師会は災害時のペット支援を体制化すること
 この3点を発信し続けていくことを私の支援の核にすることを決心しました。

[インターネットによる災害時のペット支援]
 人命優先を前提にした災害時の行政対応では、
ペットの問題を広報するのは当然のように後手後手に回ります。
「かわいそう」「助けてあげて」という意見がある一方で、
「ペットよりも人命」という声が大勢を占めるからです。
 事実、私が個人としてネット上の掲示板やMLに発信した「ペットも一緒に避難を」
という呼びかけに対し、
それを見た人から数々の反感メールが届きました。
誹謗中傷・罵詈雑言・嫌がらせメールです。
言葉遣いはさまざまですが、内容としては「この大変なときに何がペットだ。人命優
先に決まっているじゃないか」というものです。
 その通りです。それは百も承知です。
ですが、人命優先を当たり前としたうえで、被災者の苦しみをひとつでも減らすため
に、ペットを大切に思う飼い主さんを支援するのはいけないことでしょうか?
被災したうえに大切なペットまで失う・・・私は飼い主さんの涙を見たくはありませ
ん。
生き延びて、やがてまた家に帰る、大切なペットと共に・・・そうあってほしいと思
います。
 いかなる反感メールを受けても、これからも私はペット避難を発信し続けます。
飼い主さんのために、ペットのために、そして明日は我が身の自分のために。

有珠山、噴火してくれてありがとう。
私は有珠山からたくさんのことを教えてもらいました。